フロイトの理論は、その後の心理学者たちによって多様に発展していきました。大きく分けると、社会的文脈や対人関係を重視する方向と、より幼児期の早い段階に原因を探る方向です。ここでは、代表的な流れを整理してみます。
---
ネオフロイディアンと自我心理学
フロイトの弟子や影響を受けた学者たちは、フロイトの理論を修正しながら新しい方向性を拓きました。
エリク・エリクソン、カレン・ホーナイ、ハリー・サリヴァン、エーリッヒ・フロム、フリーダ・フロム・ライヒマンらは「ネオフロイディアン」と呼ばれ、社会的文脈や人間関係を重視しました。
フロイトの末娘アンナ・フロイトは「自我心理学」を確立し、防衛機制を体系化しました。さらに児童分析を創設し、遊戯療法を取り入れたことでも知られています。
第2次世界大戦のユダヤ人迫害により、多くの学者がアメリカに移住。アメリカでは自我心理学派が形成され、発達論や母子関係の観察を通じて、神経症や精神病の原因をエディプス期以前に求める方向に発展しました。
---
イギリスの対象関係論
イギリスでは、メラニー・クラインやドナルド・ウィニコットが「対象関係論」を発展させました。
フロイトが対象を「本能満足の手段」とみなしたのに対し、対象関係論は自我は本来対象を求める性質を持つと考えます。
そのため治療者と患者の関係そのものが重視されるという特徴があります。
---
アドラーの個人心理学
フロイトと袂を分かったアルフレッド・アドラーは、次のような独自理論を打ち立てました。
器官劣等性と力への意志:身体的な劣等を克服しようとする意志が成長を促す。
目的論的心理学:フロイトの「原因論」から離れ、未来の目標追求を重視。
「個人」は「分割できない統合された全体」としてとらえる。
その意味で、アドラーの心理学は精神力動アプローチというより、人間性心理学に近い立場だといえます。
---
ユングの分析心理学
フロイトの友人でありつつ決別したカール・ユングは、以下の特徴をもつ理論を展開しました。
1. 無意識には補償機能や創造性があると考え、夢分析や箱庭療法・絵画療法に応用。
2. 個人的無意識のほかに、集合的無意識があり、その中には神話や昔話に現れる**元型(archetype)**が存在する。
3. 心は「内向性と外向性」「男性性と女性性」などの対極的な力の動きとして理解される。
4. 中心概念は「自我」ではなく**自己(self)**であり、「個性化の過程」を通じて心の全体性を回復することを目指す。
---
北米における発展:自己心理学と境界性パーソナリティ
アメリカでは、精神分析は権威的なスタイルから、より親しみやすい態度へと変化しました。
ハインツ・コフートは「自己心理学」を提唱。子どもが必要とする
ミラーリング(心を映し返される体験)
理想化(親を理想として仰ぐ体験)
の不足が自己愛性パーソナリティ障害の原因になると考えました。
セラピストは「鏡転移」や「理想化転移」を通じて治療を進めます。
オットー・カーンバーグやジェームス・マスターソンは、境界性パーソナリティ障害の治療理論を体系化し、力動アプローチの発展に大きく貢献しました。
---
📌 精神力動アプローチはフロイトから始まりましたが、その後は 社会・関係性を重視する流れと 発達初期に注目する流れの両方向に枝分かれし、今日まで影響を与え続けています。
次回は「精神力動アプローチ②」として、さらに詳細を見ていきます。