1.人間への注目①
●心理学と社会に対する疑問
20世紀前半、アメリカ心理学の主流は行動主義でした。そこでは「心の中を内省で観察する」ことは否定され、人間の行動は遺伝と環境によって決定されると考えられました。
一方、精神分析は「人は性や攻撃の衝動といった無意識に突き動かされる存在」であると強調しました。
どちらも「自由意志」や「自己決定」といった肯定的な人間観を軽視しており、治療技法や理論の開発に重点が置かれていました。
第一次世界大戦後、戦勝国のアメリカやイギリスでは進歩主義が加速しましたが、敗戦国フランスやドイツでは「人間にとって本当の幸福とは何か」を問う実存哲学が芽生えます。
この思想は、後にヒューマニスティックアプローチへ大きな影響を与えることになります。
---
●ヒューマニスティックアプローチの先駆者
(1)オットー・ランク
フロイト派から離れ、無意識よりもクライエントの意識的体験を重視。「人は創造的な意志で人格をつくる」と考え、「意志のセラピー」を生み出しました。
(2)アルフレッド・アドラー
フロイトと決別し、個人心理学を創設。劣等感を克服し成長しようとする意志を強調しました。セラピストがクライエントを評価しない・裁かない姿勢の重要性を説いた点でも革新的です。
(3)マルティン・ブーバー
宗教学者で「対話の哲学」を提唱。人は「我―汝」の関係において初めて人間らしく存在できると考えました。セラピーにおいても、相互性や純粋な出会いが治療的作用を生むとしました。
(4)クルト・ゴールドスタイン
脳損傷兵士の研究から「人間には環境に最大限適応しようとする自己実現の傾向がある」と結論づけました。この考えはロジャースやマズローに引き継がれていきます。
(5)実存哲学者たち
キルケゴール:実存哲学の起源
フッサール:現象学を提唱し、クライエントの主観的体験理解に影響
---
●「第3勢力」の心理学
ヒューマニスティックアプローチは、行動主義・精神分析に続く**「第3勢力」と呼ばれます。
代表的なものにはクライエント中心療法、ゲシュタルト療法、実存療法**などがあります。
そこに共通する人間観は以下の4点です。
1. 内省能力の重視
個人が主観的に感じ取る「自己感」を理解することが重要(=現象学的アプローチ)。
2. 自己実現傾向への注目
人は本来、困難を乗り越え、成長へ向かう存在である。
3. 自己決定への注目
外的要因に流されるだけでなく、自ら人生を選び取る主体である。
4. 人間中心
人間を機械的に扱うのではなく、尊厳ある存在として尊重する立場。
---
まとめ
ヒューマニスティックアプローチは、「自由意志」や「自己決定」を大切にし、人を尊厳ある存在として扱う心理学です。
ロジャースやマズローの理論に受け継がれ、現代の心理臨床に大きな影響を与えています。
#臨床心理学
#ヒューマニスティックアプローチ
#実存哲学
#人間性心理学
第3勢力心理学