4.実存療法(Existential Therapy)
実存アプローチは、1940〜50年代のヨーロッパで、精神分析に限界を感じた臨床家たちによって生み出された。
彼らは人間の存在そのものを中心に据えた心理療法を目指した。
●発展の軌跡
メダルト・ボス:機械的な人間観に疑問を持ち、ハイデガーの「ダーザイン(存在)」を心理療法に取り入れ、**存在分析(Daseinsanalyse)**を提唱。
ヴィクトール・フランクル:ナチスの強制収容所での体験から「生きる意味への意志(will to meaning)」を重視し、**ロゴセラピー(Logotherapy)**を創始。
ロロ・メイ:実存主義をアメリカに紹介し、個人が自分自身とどう向き合うかを中心に実存療法を発展。
ブーゲンタールやヤーロムがこれを北米に広げたが、正式な訓練機関は存在せず、他の心理療法を学んだ臨床家がそれぞれの実践に取り入れていった。
●人間と心理療法の見方
人間の葛藤は、**変えられない存在の条件(限界・孤立・虚無)**との衝突によって生じる(May,1981;Yalom,1980)。
実存療法では、こうした「生の不安」を受け止め、自由・意志・選択に向き合う勇気を育てる。
セラピストは、「なぜできないのか(Why)」よりも、
「なぜやらないのか(Why not)」という姿勢でクライエントを支える。
> wishing(願う)→ willing(意志する)へ。
防衛や恐れを越えて、行動する勇気を取り戻す。
●主要概念
自由と責任:サルトルは「人間は自由という刑に処されている」と述べた。人は常に選択し、その結果に責任を負う。
意味の次元:フランクルは、人間には「身体・精神・スピリチュアル」の三層があり、最後のスピリチュアルとは宗教ではなく、意味を見出す力を指すとした。
苦しみや悩みも、生の一部として向き合うとき、
それは虚無への解毒剤となり、成長と再生の契機となる。
実存療法のテーマは──
> 「意味が感じられない世界で、なおも意味を見出す」
その勇気を取り戻すことである。
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