※本記事は、ミネルヴァ書房『福祉心理学』(渡部純夫・本郷一夫 著)をもとに学習・要約したものです。
本章では、自殺に至るまでの背景や、その予防と支援のあり方について考えます。
■ 自殺を「個人の問題」にしないために
自殺は「個人の弱さ」や「精神疾患のせい」といった短絡的な理解で片づけられがちです。
しかし福祉心理学では、それを社会的・構造的背景の中で捉え直す視点を重視します。
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経済的困窮
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家庭や学校・職場での孤立
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社会的排除(LGBTQ、障害、外国人など)
自殺とは、「社会の中で居場所を失った人間の最終的な自己表現」とも言えるのです。
■ 自殺の心理──“死にたい”は“生きたい”の裏返し
自殺を考える人の多くは、「本当は生きたいけれど、もうこれ以上苦しみたくない」と感じています。
そこには以下のような心理が存在します。
支援者が目を向けるべきは、「なぜ死にたいのか」ではなく、**「何がそうさせているのか」**です。
■ 自殺リスクが高まるサインと背景
自殺には「予兆(サイン)」があることが多いとされます。
こうしたサインの背景には、「話せる人がいない」「助けを求める手段がない」という状況が隠れています。
見える変化の背後にある“気持ち”に寄り添う視点が必要です。
■ 自殺と社会的要因──コロナ禍と若年層の増加
近年の特徴として、10代・20代の自殺者数の増加が挙げられます。
背景には以下のような社会的要因があります。
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SNSによる比較と孤独
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学業・就職への過剰なプレッシャー
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家庭内不和や虐待
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コロナ禍での閉塞感と将来不安
これらは本人の努力ではどうにもならない問題であり、社会全体での支援体制の整備が求められます。
■ 自殺予防における支援者の役割
支援者に求められるのは、「救ってあげる」立場ではなく、“一緒に立ち止まり、ともに考える”伴走者としての姿勢です。
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話を聴く:評価や助言よりも、まず受け止めること
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沈黙を恐れない:言葉で埋めようとせず、存在を共にする
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小さな希望を探す:「明日の予定」「好きな食べ物」など日常の中の小さな光をともに見る
ときには専門機関への橋渡しも必要ですが、それ以前の「命の前に立ち会う覚悟」が支援の第一歩です。
■ 実践的支援の場──ゲートキーパーと地域連携
自殺予防の現場では、**「ゲートキーパー」**という考え方が注目されています。
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ゲートキーパーとは、「悩んでいる人のサインに気づき、つなぐ人」
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専門家でなくても、家族・教師・友人・地域住民など、誰もがなり得る
福祉心理学では、「支援する者/される者」という構図を超えて、地域全体で支え合う文化の構築を目指します。
■ まとめ──「死にたい」と言える社会へ
自殺を本当に減らすためには、「死にたい」と言える場・言える関係性が必要です。
それは単なるカウンセリングや制度支援だけでなく、“あなたは生きていていい”と伝える社会のまなざしです。
福祉心理学が目指す支援とは、「生きる力」を押しつけることではありません。
「ともに生きる」というまなざしを持ち続けることなのです。